第77回 株式会社ファジアーノ岡山スポーツクラブ 木村正明 5

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<未来へ~ファジアーノ岡山スポーツクラブが目指すもの>
「岡山出身です」、「ファジアーノのある県ですね」と言われるクラブを、県民と共につくり上げていきたい

 2006年、JFL昇格を目指していたファジアーノは、中国リーグの優勝を勝ち取りましたが、各地域リーグの覇者が集う全国地域リーグ決勝大会で3位の結果。で、惜しくも地域リーグに残留。しかし翌年は、地域リーグとしては異例のJリーグ準加盟を果たし、地域リーグ決勝ラウンドでも優勝。念願のJFL昇格を果たします。そして昨季の2008年、JFLの4位に入り、なんとJ2昇格が決定。もちろんこの結果は選手、スタッフが全員で号泣するほど最高に嬉しかったのですが、一抹の不安も感じました。僕は地元に根ざしながら100年以上続いていくクラブをつくりたい。そのためにはひとりでも多くの岡山県民が、勝利する喜び、時には敗れる悲しみの両方をしっかりと共有し、人ごとではなく“我がクラブ”という、ひとりひとりの強い気持ちで支えることが大切だと思っています。

 ちなみに、J1クラブの年間平均収入は年間30億円、J2は12億円。それに対し、ファジアーノの来季収入は4億5000万円を予測。不謹慎な言い方になるかもしれませんが、サポーターの強い気持ちの醸成、経営体質の強化という土台づくりをしっかり行ってから、J2に昇格したほうが良かったのかもしれません。ただし、着実に地域のみなさまに受け入れられつつあることは実感できています。実は、ファジアーノ33人の選手の約半数が、月給10万円以下なのです。でも、地元のスポーツジム、アパート、銭湯、食堂、美容院、病院などにサポートいただき、選手たちは無料で利用できる。ですから、生活費を大きく抑えることができる。本当にありがたいことです。

 高校を卒業し、岡山を離れてから、「岡山出身なんです」と人に話して、一度もかっこいいと言われたことがありません。たとえば隣の広島県で男ふたり集まれば、「なんで新井は阪神に移籍したんじゃろう」「サンフレはJ2落ちてもレギュラーほとんど残ったのう。立派じゃ」と、カープやサンフレッチェの話題で盛り上がる。僕が小学生の頃、広島に野球の遠征試合に行ってゲームを終えた後、相手のチームの子どもたちが、「これから自転車で市民球場へカープの試合を見に行くんじゃ」と盛り上がっているのがとてもうらやましかった。日常生活の中にプロスポーツが存在することって、とても素晴らしいことなんですよね。これからも、岡山で生まれ育った人たちが「岡山出身です」と話したら、「ああ、ファジアーノのある県ですね」といわれるようなクラブを、地元の方々と一緒につくり上げていきたい。クラブは生活に絶対必要なものではないですが、日常生活にひとつの豊かさを与えてくれるものであり、それを求めている人たちが必ずいると信じていますから。

<これから起業を目指す人たちへのメッセージ>
起業には想像以上の苦しさが待ち受けている。人生一度きり、悔いを残さぬよう、闘おう!

 僕の場合、生まれ故郷に足りないものを根付かせたいという郷土愛と、様々な恩返しの気持ちが起業の原動力となっています。岡山出身というと「はあ?」という反応がほとんどで、素晴らしい街なのに印象が薄い。ちなみにすべての新幹線が止まりますが、これもほとんど知られていません。でも、ファジアーノ経営の話を持ちかけられた時、この世というタイミングで、日本のこの場所に生まれたことって、ものすごい確率の奇跡だと思ったのです。だったら目の前のチャンスに挑戦すべきだと。ただし、クラブ経営は小手先の成功ではなく、続けて行くことに意味があります。僕が死んでもずっと残り続けてほしい。だから、選手やスタッフには「今は苦しいけれど、いつか立派なクラブハウスができて、その壁に自分たちの写真が飾られている。それを自分の子どもや孫たちが見て、『これは僕のおじいちゃんなんだよ』と自慢している。そんな未来を夢見て頑張ろう」と話しています。岡山にゆかりのあるすべての方々にとって、ファジアーノがよすがとして機能してくれればいいなあと思うんです。

 東京や大阪など、都会からUターン起業を希望する人も多いと聞いています。僕は高校を出てから東京で約20年、生活を続けました。岡山よりも長く生活をしたわけですから、すべての生活基盤は東京。いきなり地方に転居し、ビジネスを立ち上げるというのは大変厳しい選択だと正直思いました。僕の場合も東京での楽しい刺激が激減し、かなり寂しい思いをしましたしね(笑)。Uターンしたてのタイミングでは、地域のきずなの強さにしり込みしてしまうこともあるでしょう。でも、やはり同級生のネットワーク、様々な人たちとの縁はしっかり残っているもの。これは結果論ですが、起業する時はすべてが初めての経験ですから、地縁に根づいたしっかりした人間関係があるのは有利だと思います。司法書士、税理士をどなたにするか、事務所をどこに置くか、信頼できる顧客基盤をどうつくるか、机・椅子・車の手配、果ては事務所のコーヒーメーカーまで、経営者が決める訳ですから。自分が立ち上げたいビジネスがあれば、故郷で起業するのは、ひとつの考えだと思います。

 正直、僕もまだまだ駆け出しの起業家ですから、アドバイスできるようなことなどないんです。ただ僕と同じような立場で起業を目指す方々にお伝えしておくなら、やはり、これまでの友人たちや仕事仲間との関係を絶やさないことは大事だと思います。そして自分も彼ら彼女らのために何かできることをする。Uターンしビジネス、っていうのは日本であまり聞いたことがないので、志ある人にはぜひチャレンジしていただきたいです。最後に、Uターン起業に限らずどんなスタイルでも、起業に挑戦すると想像以上の苦しさがあなたを待ち受けているはずです。人生一度きり、悔いを残さぬよう、ともに闘っていきましょう! 応援しています。

<了>

取材・文:菊池徳行(アメイジングニッポン)
撮影:内海明啓

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