第28回 株式会社幻冬舎 見城 徹 4

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常にヒリつくような挑戦者の立場を求め、圧倒的な努力で不可能をクリアし続ける

<見城徹、仕事の流儀>
好きな人を動かしたいのなら、相手をとことんイメージすべし

 角川書店には新作を書いてもらえなかった、五木寛之さんとの仕事を話そうか。まず、五木さんが書いたどんな小さなコラムも、エッセーや対談も必ず読 んで、そのすべてに手紙を書くことを決めた。ただ「良かったです」ではなく、ある程度の批評になってないといけない。自分は必ずあなたのプラスになりますという刺激を感じてもらえない限り振り向いてはくれないでしょう。的はずれになっては逆効果になるから、時間をかけて一所懸命に書いた。最初のうちは全く返事は来ない。18通目くらいで、初めての返事が届き、25通目くらいのときに、初めてお会いすることになった。もしも僕が角川の社員じゃなかったら、ストーカーだよ(笑)。でも、その出会いがきっかけで『野性時代』に『燃える秋』の連載をいただいて、単行本になって50万部くらい売れて、映画化もされた んだ。

 僕もよく人から手紙をたくさんもらうけど、時候の挨拶と自分のことばかり書いてくる人が多いね。僕を しっかりイマジネーションしてくれないと、僕が気づかなかった深層心理に気づかせてくれないと、その人に会いたいとは思えないよ。手紙って全部相手のこと を書かないとだめなんだよ。だから僕は対象への強い感動がないと動けないって言うんだ。結局、僕が尾崎豊の本を出したいと思ったのも、街角で流れてきた 「シェリー」を聞いて感動したからだし、ユーミンと仕事を始めたのも、カーラジオから流れてきた「卒業写真」に感動したから。僕の仕事は、すべて感動から 始まっている。

 ある作品に感動すると、もっとその人のことを知りたいと思うでしょう。編集の仕事って、それを独り占めにせず、誰かに分け与えたいという情熱を もって、表現者と編集者がお互いの個をぶつけ合いながら、素晴らしい作品に仕立て上げていくこと。そういった意味で、編集者というのはある意味特権階級な んだよ。なぜなら、この人に会いたい、一緒に仕事したいと思えばそれができるんだから。もちろん、本気でそれを実現するためには、圧倒的な努力が必要とな るんだけど。

 僕は、角川時代も、幻冬舎をつくってからも、たくさんのベストセラーを世に出し続けてきた。よく「見城さん、あなたは運がいいね」って言われるんだよ。「ああ、おかげさまで」と応えてはいるけど、「バカ野郎。俺はあんたの百倍以上、血みどろの努力をしているんだよ」と心の中で呟いてる。もちろん、 そんなこと言っても無駄だから口に出しては言いませんよ。まあ、「これほどの努力を人は運と言うんだ」って愚痴っているときが、実は一番いいときなんだろうね。

<幻冬舎の誕生と船出>
単行本同時一挙6冊で創刊。圧倒的な努力で運を手繰り寄せる

 角川書店では、入社した年から17年後に辞めるまで、ずっと一番の稼ぎ頭だった。だから、一番若い取締役に抜擢されました。でも、年齢や地位が上 がってくると、自分でやらなくてもいいことが増えて、それゆえ感動との出会いが減って……、だんだんそんな自分に嫌気がさしてくる。腐り始めた自分に気づ いてしまったとき、もうこの環境を壊すしか道はないと思った。すべてをゼロに戻したとしても、戦おうと思える自分がいる限り大丈夫だろうと。会社を辞める ふんぎりがついたのは、コカイン密輸事件で角川春樹氏の社長解任動議に賛成票を投じたときだね。そして、1993年に僕は角川書店を退職して、その年の 11月、五木寛之さんに社名をつけてもらい、幻冬舎を立ち上げたんだ。実をいうと35歳くらいから、いつもポケットに辞表を忍ばせていたんだが。

  1994年の3月25日、朝日新聞に「文芸元年。歴史はここから始まる」というコピーの全面広告を掲出し、五木寛之、村上龍、山田詠美、吉本ばなな、篠山 紀信、北方謙三の単行本を一挙6冊創刊。その後、郷ひろみの『ダディ』では、前代未聞の初刷50万部、天童荒太の『永遠の仔』では、25万部売れないと採 算が取れないくらいの広告を投下、そして設立3年目には文庫を一気に62冊刊行……。なぜ、ここまでの無謀に挑戦し続けるのか。やはり死を賭して戦った奥 平に比べたら、僕のやっているリスクなんて大したことないって思えちゃうんだよ。僕自身は、とても臆病で、後ろ髪を引かれていつも小石につまずくようなタ イプなんだけど。

 でもね、無理・無謀に挑戦して、それをクリアしていくことが世の中からは一番カッコよく見えるんですよ。僕は設立当初から、何かを売るというより も、幻冬舎というブランドがいかに鮮やかに見えるかということに心を砕いてきた。もちろん、その実現には圧倒的な努力が必要とされる。運をつかもうと思っ たら、絶対に圧倒的な努力が必要なんだよ。それがあったとしても、運がつかめないときはあるんだから。でも僕は圧倒的な努力で8割のリスクは埋めることが できると信じてる。だから、勝ちが決まっているゲームをあたかも無謀のように演出しながらやってきたという想いはあるよね。これまでのすべての仕事におい て。自分で言うのも何だけど、幻冬舎は世の中の人たちがカッコイイと思ってくれるブランド力のある会社になったと思ってる。

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